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不動産賃貸管理業というものは、サービス業であるがゆえに、クレームというものは必然的に発生します。そのため、事業継続において、クレーム対応策は考えねばならない内容となります。
本記事の導入編では、クレームを放置することで起こる悪影響や、多くの不動産管理会社様を悩ませる、いわゆる不良入居者に対するクレーム対応の必要性について解説します。
まず一つ目は、人的コストの消費です。結局のところクレーム対応は、どうしてもマンパワーが必要な業務となってしまいます。
クレーム対応に従業員が時間を取られてしまい、本来の賃貸管理や賃貸業務ができなくなり、それによって収益が低下するという問題が発生します。
2つ目は、従業員の方々の士気の低下、作業効率の低下です。クレーム対応というのは、誰しもあまり対応したくない、率直にいうと後ろ向きな業務です。
もちろん、クレームがあった以上、従業員の誰かが対応しなければなりません。しかし、クレーム対応ばかりを行っていると、従業員の士気がどうしても低下してしまい、やる気がそがれてしまいます。
場合によっては、退職等の事態にもなりかねません。この辺もマイナス点として挙げられるところです。
3つ目は、クレームに起因して、会社の評判が下落してしまうという可能性です。
昨今のクレーマーは、会社へ直接クレームを入れるだけでなく、ホームページやGoogleのコメント等で悪評を書き込むこともあります。このような悪影響を及ぼすコメントは、削除が困難かつ削除までに一定の時間を要することもあり、1度書き込まれてしまうと企業への影響が非常に大きくなります。
一方で、ホームページ等におけるクレーマー的なコメントの削除請求、削除対応は、費用と手間がかかり、なかなか難しいのが現状です。こういった悪評が立つことにより、会社の評判が下落してしまうという可能性も無視できません。
4つ目は、既存の顧客への悪影響です。
クレーマーに絡まれているということは、実情に関係なく、この会社は何か問題があるのではないかと、どうしても思われがちです。
そうなってしまうと、新しい顧客からの嫌厭にも繋がり、また、継続的なクレーム対応で忙殺されることで、既存の顧客からも「ちょっと大丈夫かな」と不信感を持たれ顧客離れにつながってしまいます。
クレームが原因で、直接的な収益の低下にもつながるという点は、非常に問題といえます。
クレーム対応の観点では、前述した4つの一般的な必要性に加え、3つの要素が別に存在します。まず1つ目は、不良入居者の存在自体が、入居者からのクレームだけでなく、別のクレーム要因にもなり得るという点です。
当該入居者がクレーマーである以上、クレームが周囲に拡大しほかの入居者が同じようなクレームを出してくるという可能性もあります。
例えば、騒音等がよく問題になります。
騒音等で迷惑行為をする入居者に対し、集合住宅の別の入居者から管理会社等に対するクレームが発生します。
2つ目は、入居者の性質上、継続的な関与が必要になる点です。
一般的なサービス業の場合、「クレーマーの言うことをある程度聞く」「無視する」といった方法で、何とか解決を図る・沈静化を図る手段があります。
しかし、賃貸管理に関しては、問題の入居者が物件に住み続けている以上、クレームの問題はずっと続きます。
現在の法律上、一旦入居した方をいきなり退去させるということは難しいです。もちろん、賃料滞納等があれば別ですが、そういった例がないと難しいのが現状です。従って、クレーム対応を放置することは解決につながらず、結果的に長期間の対応が必要となってしまいます。
そして、最後の3つ目は、不良入居者が集合住宅マンションやアパートに居住していること自体が、その物件の他の部屋の客付けに大きな影響を与える点です。
一般的な感覚として、ある集合住宅の1室において、使用状況・態度の悪い入居者がいた場合は、物件全体のネガティブな評判に繋がります。
例えば、別の部屋の内覧に来たお客様が、問題行動を起こしている入居者の存在を知った場合、この物件への入居をやめておこうという考えに陥りるのはある種当然といえます。要するに、不良入居者をそのままにしておくことが、客付けへの悪影響に繋がりうる、ということです。
そして、客付けが悪くなると当然、収益は低下します。収益が下がると、オーナー様からの不満要素にもつながってきます。このようなクレームの負の連鎖といった点も、不良入居者対応では意識しなければなりません。
まとめると、不良入居者を放置してしまうと、クレーム対応における問題点4つの全てに繋がる可能性があります。そのため、基本的には不良入居者の存在、もしくは迷惑行為の存在を認知した場合は、早急な対応が必要となります。
しかし、不良入居者については、上述の通り、一般的なクレーム対応と異なった特有の問題点が存在します。この問題点をきちんと把握しなければ、当然ながら対応はうまくいきません。
ここまでの説明で、賃貸管理におけるクレーム対応の必要性・重要性はご理解いただけたかと思います。
また、(不良)入居者対応が一般的に難しいと言われている理由についても紹介します。
主に、入居者対応が困難な点には様々な理由がありますが、以下の3つが非常に大きな要因ではないかと私は思います。
まず1つ目は、不良入居者が起こす問題行動について、これを理由に何が言えるのかという点です。
「法律上の請求根拠が不明確である」という点は、入居者対応の困難さの理由としてまず挙げられます。
例えば、騒音がうるさいとか使用状況が悪い、共用部分にいろいろゴミを置く等、典型的なクレーム(元となる迷惑行為)の場合、賃貸借契約に基づく違反なのか、それとも何かの法律に違反しているのか、そうでないのかといったことが直感的にわかりづらく、何を主張していいのか見えにくいです。
一方で、入居者トラブルの典型的な例に、賃貸借入居者上の問題として賃料滞納があります。この場合は、賃料を期日までに支払わない=契約違反ということは明確ですので、シンプルに賃貸借契約に違反しているので払ってくださいと言えます。
このあたりが賃料滞納対応の場合と、不良入居者対応の場合で大きく異なる点です。
続いて、2つ目は、問題行動自体の是正が非常に難しい、自制が難しいという点です。「適切に物件を利用してください」という申出をしても、「適切」という点の解釈が人により異なるため、実現しないことがほとんどです。
この点も、入居者対応を困難にさせる理由でもあります。
賃料滞納の場合は、未払いがあった場合は裁判や簡易な手続である支払督促等により、滞納額を確定させることは可能です。それでも払わない場合は、(確定した)判決等に基づいた強制執行等も可能です。
賃料滞納等の場合は、相手が任意での支払いに応じない場合は、強制力も行使できますが、不良入居者対応においては、そのような手段は取りにく、という現状が挙げられます。
そして3つ目は、最終的な不良入居者対応として、行き着くのは不良入居者に出ていってほしい・明け渡ししてほしいというところになりますが、法律上、利用状況を理由とする明け渡しのハードルは高いところです。
各種類型にもよりますが、少なくとも賃料滞納の場合と比べると簡単ではないということは間違いなく言えるでしょう。
賃料滞納については、一定額の滞納があれば、解除や明渡しを請求できる点は実務上・裁判例上も確立していますので、滞納状況が継続する限り、問題になることは少ないといえます。
一方、不良入居者対応は、明渡を法的に実現するハードルが高いことは、大前提として押さえておかなければなりません。
最後に、不良入居者対応は、一筋縄ではいかないということが現実としてあります。
ただ、対応が全くできないかというと、そういうわけではありません。
対応を進めるにあたって重要なのは、ポイントを押さえた対応を行うことです。ポイントを押さえることで一定の対策は可能となり、効率的な対応につながって、従業員の負担軽減にもつながります。
まずはこの2点を押さえていただいた上で、次回の記事では、各種トラブル類型ごとの対応のポイントと対応策を紹介します。
* 本記事は、2022年6月開催「入居者トラブル対応」セミナーの内容を反映させたセミナーレポートになります。
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